永青文庫『春画展』へ行ってきた~浮世絵の美人画は江戸時代の「萌え絵」である。

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永青文庫にて開催中の『春画展』へ行ってきました。

永青文庫 春画展

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入口からすでにいたるところに「18歳未満入場禁止」の札が。

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“たしか六本木ヒルズの森美術館でやってた『会田誠展』でも、18禁の展示エリアにはちゃんとこういう立て札をしてゾーニングしてた筈なんだけどなぁ…。なんで叩かれたのかなー(棒”

という疑問も頭をよぎったんですが、そんなことはとりあえず今回脇に置いといて、鑑賞することにしました。

 

朝の開場時間(AM9:30)に到着したら、既に列が。

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100人程度、かな。もちろんみんな18歳以上

20分程度並んで入場。

入口付近はこんな外観
入口付近はこんな外観

 

展示は肉筆画からはじまり、歌麿・春信・国芳・北斎など知られた絵師の手による作品が並び、庶民に広く普及した小冊子形式のものや「豆判」という小型の版画までをひと通り見られる構成。

国芳なんかは春画でも骸骨とまぐわってる絵を描いてて「ああ、こいつ本気でスカルマニアなんだ」と覚らされたりも。

歌川国芳といえばこれを思い出すわけだが、やはり髑髏フェチだった

と云っても春画はその性質故作者が別名を用いているものも多く、「~と推察される」みたいな但し書きも目立ったのもひとつためになったところ。

いわゆる春画=”和印”(わじるし)というものはほぼ現物なんぞ目にする機会がなかったので、実物を見て想像と違ったのは
(局部が矢鱈とデカく描写されてる、という知識くらいはあったけど)
その性器にきちんと精液や愛液なんかの汁モノがちゃんと描かれているものがけっこうあったこと。

陰毛が描かれてるのは普通に理解できるんですが、ザーメンがペニスの先端から溢れてるという描写が江戸時代に既に描かれていたのには驚きです。

だって…こういった体液の描写ってのは、エロ漫画の世界では割と後発なんですよ。

あくまでも持論ですが、描く側から云えば、エロスの肉体的描写の深化ってのは

性器を描く(ただのスジだけ&記号化や『やる気まんまん』形式のオットセイ等擬態化など)

性器のリアル化

陰毛の描写

ザーメン・愛液の描写

っていう順番になってるわけ。

(※ちょっと外れるけれど、持論として「陰毛描写が採り入れられた」時点が『ロリコン漫画』から『エロ漫画』へのターニングポイントだと思ってるんで、エロ漫画の歴史上ここにパラダイムシフトが在った、と考えてるんだけど。ま、これはまた機会があればじっくり考察します)

と、鑑賞してて、ふと

“これ、現代のエロ漫画と同じじゃね?”

と思えてきた。

 

そこでまた思い至ったのが、絵柄、という点。

たとえば、今回の展覧会で展示されている江戸時代の春画っていうのは、浮世絵の画風・文法を用いてますよね。
具体的に云えば、浮世絵の特徴というと、

  • 面長
  • 小さく切れ長の目
  • 高く伸びた鼻
  • おちょぼ口

 

これがいわゆる”美人画”の構成要素。

【美人画の例】

『春画展』チラシより
『春画展』チラシより

ちょっと昔の絵でみっともないんですが、ここで比較サンプルとして自作の萌え絵を出してみます。

【萌え絵の例】

萌え絵のみほん
萌え絵としてはあんまり適した例ではないですが…

自分はこのテの絵って不得手なんで昨今主流の”萌え絵”は描いてないんですけど、
あくまでもサンプルとしてご覧ください。

ここで萌え絵の概念は何か、と考えると、

  • 丸顔の輪郭
  • 細くて小さい顎
  • 大きな瞳
  • 小さい鼻

 

あたりが思いつくのではないかと。
(他にも手や指の形なんかも共通したパターンがそれぞれにあるのだけれど、考察するとキリがないので割愛)

こうした共有化された造形イメージを言語として、エロ表現を筆やペンによる筆致で表現する

春画もエロ漫画も、つまりは同じ構造、ってことですよね。

 

更に、この両者、文法だけではなくて、流通なんかでも共通点が見受けられます。
(先に述べた”絵師が別名義で描いてる”なんてぇのもそうですね)

春画は、当時は購入だけではなく「貸本屋」という商売で軒を御用聞きのように回り、一定期間、本を置いていき代金を徴収していたとのこと。
いわゆる「富山の薬売り」方式ですな。

現代ならさしずめツタヤのやってる宅配レンタル「TSUTAYA DISCUS」みたいなもんでしょうか。
(もっともそのツタヤ自体が『蔦屋』=江戸の版元蔦屋重三郎をルーツとしているので、案外貸本業も営んでいたのかもしれない)

そう考えると、展示最後の豆判なんてぇのはさしずめ現代で云えば携帯コミックやスマホアプリみたいなもん、てことになるのかしらん?

 

また、目に留まった展示物の中で歌川国虎『祝言色女男思』(しゅうげんいろなおし)というがあり、そこで貸本屋の主人が

「近頃は男女のカラミだけ描いても客は満足しなくなって凝ったものを描かなきゃ売れなくなった」

と嘆く挿画があって、

「なんだか“男の娘”やら”NTR”やらどんどんニッチなものを求められる現代のエロ漫画と同じだなぁ」

と感心させられたりも。

“イヤモウたゝいま申しますとをり当時のわ印は一ト通りてはいけません。//イエサ今では御見物さまのほふが御めがこんて入ッしゃるから。大ていな事ではけしておよろこび遊しません。まへはたゞ人物二人に少しかき入れが御座りますればそれですみましたもので。”

(図録より引用)

庶民の手が届きやすくなった版画にしても、1枚絵だけのものから複数枚を合わせて本にし、それが更にストーリー性のあるものになり、
更には源氏物語や伊勢物語などのメジャーな物語や源平合戦なんかの誰もが知ってるエピソードを素材にアレンジしたものが現れたり。

これ、つまり「パロディ」=「二次創作」ってことですよね。

もちろん江戸の時代には商業/同人なんて出版の区分けはないけれど、天保の改革でお上からの規制があったりと、なんだか現在のエロ漫画がそのまま江戸の春画の歴史をなぞっているような、そんな歴史の反復性を垣間見たような気がしました。
(さすれば2010年の都のコミック規制は現代の天保の改革だったわけ、か…?)

と、いうことは、

春画の変遷を鑑みればエロ漫画や同人誌界の行く末も予測できる

のではないかなあ…などとふと考えてみたり。

 

そんなことを思いながら1時間ほどで閲覧は済んで、出てくると既に入場列は無くなってました。
行くなら朝イチではなく、会場1時間後くらいの10時半過ぎ~11時頃を目安にしたほうが空いてるみたいですね。

ということで続いて物販コーナーへ。

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会場脇の別棟が物販コーナー

ここでもうひとつの目的であった図録をゲット。

この図録が素晴らしく、自立できるほどの分厚さ。

立った
そそり立つぞ

見易く配慮された丁寧な装丁。

ページが完全に開ききるようになっていてノドに絵が回りこまない
ページが完全に開ききるようになっていてノドに絵が回りこまない

これで4千円はお買い得!

そんなわけで、大いにためになる展覧会でした。

現代のエロ漫画もあと200年くらいしたら”萌え絵”が型が認められアートとして見てもらえるようになるんですかね。

 

この『春画展』は、期間は12/23まで。11/3から展示を差し替え後期展示に切り替わるそうです。

場所は椿山荘の裏辺り。

地図はこちら。

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永青文庫サイトより。新目白通り側から行く場合かなり上り坂なので注意

永青文庫は細川護熙元首相が関わっているらしいので、ここの土地ももともと細川家の所有だったんでしょうかね。
参勤交代用のお屋敷でもあったりしたのかな?
(追記:旧・細川邸だったとのことです)

椿山荘の旧目白通りを挟んだ向かい側には東京カテドラル聖マリア大聖堂があるのでついでにパチリ。

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東京カテドラル聖マリア大聖堂

丹下健三設計の名建築。

昔からここを通るたびにじっくり見たいと思ってたんですが、今回も通り過ぎただけで終わってしまいました…

 


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