ブックレビュー|柴田錬三郎『真田十勇士』
大河ドラマで『真田丸』が放映されたこともあり、昨年の出版界では真田幸村関連のブームが沸いていたようである。
もとより大河ドラマの題材になれば出版業界は雨後のタケノコの如く関連書籍の刊行ラッシュとなるので、毎度毎度のことなんだが。
その流れに乗じて、柴田錬三郎著『真田十勇士』が奇跡の如く文庫化された。
と、言っても、ほとんどの世間にとっては何がいったい奇跡なのか、ピンとこないかもしれない。
べつに歴史小説の大家である柴田錬三郎が真田十勇士を題材に作品を残してたって、まぁそんなこともあるんじゃないかナ、くらいにしか思われないだろう。事実、柴田は「真田もの」に関して別の著書を残している。
ところがこの柴田版『真田十勇士』、ちょっとしたいわくがある。
本作は、およそ40年前、NHK夕方の帯番組で放映されていた人形劇の原作なのだ。
原作、とはいっても、書籍の刊行とほぼ同時進行で人形劇が続いていたので、今で考えれば「ノベライズ」という類いに近いのかもしれない。
その人形劇がこの小説――というか、柴田錬三郎の案を基としてドラマが展開していったのは確か。
事実、この柴田版十勇士のオリジナルキャラクター達が人形劇では造形され、画面を彩っていた。
正直、自分なぞは幼い頃この十勇士しか知らなかったので、いわゆる十勇士モノに登場するキャラクターが大元のものから半分くらい入れ替わっているなんていうことにとんと気づかぬまま歳を経てしまっていた。
だいたい佐助も武田信玄の忘れ形見じゃないし、霧隠才蔵もキーリー・サイゾなんて外人じゃないし(それは当時なんとなく感づいてた)、三好清海は石川五右衛門の子供でもなかった。これすべて柴田錬三郎の創作。ずっと騙され続けていた。
それでも、改めてこの小説を読み直してみると、なかなかにそのオリジナル設定がおもしろくて楽しめたりする。
ただ、このボリュームで語り尽くすにはかなり無理があったのか、どうも粗筋を追ってるだけで駆け足で物語が進んでいっているようにも思えちゃうんだけど。ま、良く言えばスピーディ。
たぶんなのだけれど、柴田のこの原作は、あくまでもTVの物語のためのプランを描いたラフ画みたいなものに過ぎなかったのではないかなあ。
読んでいてふとそんな印象を抱いた。
まァだいたいが放送から既に40年も過ぎているし、それをTVで観ていた自分は小学生だったのだから、詳しいことなどほとんど憶えちゃいんない。むしろ前に放送されていた『新八犬伝』のほうが好きだったので、そっちのほうが記憶鮮明なほどなのだから。
この小説版も本放送当時買って読んでいたが、しっかり覚えているのは、三好清海が、佐助を恋い慕う夢影に横恋慕の上ついに思い余って「抱いても、よいか?」と言い寄る場面くらいである。
(そこを憶えている自分も自分だとは思うケド)
ところで今回採り上げている全三巻のこの作品と、別ものとなる上の『猿飛佐助』『真田幸村』の二巻になる柴田版「十勇士」、いったい何か関連があるのか、と疑問符が頭に浮かんだのでちょっとついでに調べてみると、この柴田版はもともとが同氏の著作を少年少女向けに翻案したものらしい。
あーややこしくなるので「人形劇版」「猿飛・真田版」とでもここでは記述し区別しておきます。
どうやら、先に述べたとおり最初に柴田オリジナルの(佐助=信玄の忘れ形見等の)十勇士の設定の「猿飛・真田版」があって、これを基に「人形劇版」が書き下ろされた様子。
こちらのサイトがわかりやすく解説されていたので、リンクをさせていただきます。
と、いうことは、要するにあのNHK人形劇は、もともとその「猿飛・真田版」柴田十勇士を原作に使おうと企画されたものだったのかも(?)しれませんねえ。
ただ、それがやや大人向け過ぎるきらいがあったので、柴田自ら少年版を書き下ろしたのではないか。
それがこの「人形劇版」。
そんなことを勝手に推理してしまうのだけれど、真相はどうだったんでしょうね。
「抱いても、よいか」という台詞が残っているあたり、それも大筋当たらずとも遠からず、なのかなぁなどと空想してみるのも楽しい。
三巻の末尾解説文ではTV人形劇にも言及しているのだけれど、「柴田錬三郎本人が登場したこともあったという」といった書かれ方をしているところから、残念ながら解説者氏はかの番組を見たことがないようですね。
実際に観賞していた身としては、だいたい月に数度、柴田錬三郎が出てきていろんな薀蓄や蛇足的エピソードを話していたように記憶している。
その柴田解説で筆者が憶えているのは、”勝海舟が幼い頃野良犬に睾丸を1個噛みちぎられた”というエピソードを話していた柴田の姿。
[追記:当初記事では「坂本竜馬」と表記していましたが、これは竜馬ではなく勝海舟の幼少時のエピソードでした]
当時、柴田がどんな表現でそのエピソードをTV電波で(しかも天下のNHKの夕方の放送である!)披露したのかはもはや記憶の彼方だが、幼い子供であった当時の自分にも分かるような表現だったのだから、「睾丸」や「局部」などどいう婉曲表現などではなく、やはりあからさまに「きんたま」と言っていたのではないだろうか。
柴田の傍では少年・勝が犬に追いかけられている寸劇が人形によって繰り広げられており、「~このとき勝は野犬にきんたま(仮)を喰いちぎられてしまったんですねぇ~」などと柴田が述べていたと記憶する。。
人形劇そのもののイメージはほとんど忘れてしまってはいるが、この柴田の姿だけは今も鮮明に記憶しているのであった。
先の清海の口説きエピソードといい、話の筋そのものはほぼ忘れていても、そんなことばかりしっかりと憶えているものだなあ。
夏休みの課題よろしく「よしっ! 夏休みの読書感想文の課題図書にするか」とばかりに7月初日から読み始めたのだが、夏休みに入る前に読み終えてしまった…
[2017/07/18読了]
なんと!! 同じく角川から『新八犬伝』も文庫化されてるのかー。
これはマストバイだな。
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